宮司の挨拶

桃の木で御祓い

H30-01-11 / 225話

 「古事記」に伊弉諾尊(いざなぎのみこと)は、伊弉冉尊(いざなみのみこと)から、「見ないでください。」と言われていたにもかかわらず見てしまったので、伊弉冉尊からつかわされたヨモツシコメ(死の穢れを擬人化したこと)に追われて坂本(この世とあの世の境)まで逃げて来たとき、坂本にあった桃の実を三ッとって投げつけると追っ手は、ことごとく黄泉国(よみのくに)へ逃げ帰った、とあります。また「日本書紀」にも、伊弉諾尊が道のほとりの大きな桃の木の下に隠れ、実をとって、追いかけてきた雷(いかずち)に投げつけると皆退散した、これより、桃をもって鬼をふせぐことのもと也。とあります。古代中国でも、桃の木や桃の実に関する説話は、数多あります。桃太郎伝説もまたその一つです。

 下鴨神社では、「貞観儀式」や「延喜式」のきまりにより年中の祭事の御祓い具、解除(げじょ・御祓いのこと)には、今日まで桃の木の祭具を用いています。また「宇多天皇御記」に伝えられている正月十五日の御粥「宜しく供え奉るべし」とあり、今日まで伝承のまま、五穀の御粥を御供えする氏神祭事の大祭です。この日の潔斎(けっさい・斎戒沐浴のこと)には、桃の湯、と称して桃の木の枝を束にして湯に入れます。

 御粥、と言っても、病人の食べるドロドロのおかゆ、ではなく五穀の御飯のことです。おかゆ、と御飯、の違いは、おかゆ、は炊飯したもの。御飯、は炊飯したものをもう一度水にさらして蒸したもの、です。ですから、いい、にちかいもので、強飯、とも言われています。その五穀の御飯をユズリハの上に盛って御供えします。命を次ぎに譲るという意味、と氏人は言い伝えてきました。

 一月十五日には、今年も無事息災におすごしになるよう御祈願のお祭がございますし、社頭では、五穀の御粥の接待がありますのでご参拝下さい。