宮司の挨拶

―倡謌要秘神社資料を読む 9

R3-02-02 / 259話

 今回も、鴨神道のなかで基本となっている資料を読んでみたいと思います。

 はたして、この資料の表題を何と読めばよいのか。内容は、口伝として伝わってきた事柄を江戸時代に筆記されたと思われます。江戸後期の官制禰宜泉亭俊永の「聞書」と称する手書きの留めには、「サクガ」とカタカナでルビをふっています。しかし「サクガ」と読めるのか、疑問もあります。ただ鴨神道の多くの場合、ほとんどがあて字が当然のように使われておりそのうえ、鴨言葉もあって、更には、幾つかの詞を重ね合わしせた鴨神道独自の「要秘」かもしれません。そのまま読んでみると、「わざおぎの要祕」、神さんや人々を楽しませる歌やその役の人、と解すべきでしょう。鴨の氏人達は、御厨(みくりや)(お供え物を調理する職)の神楽人(かぐらびと)(國ぶりの音楽を受け持つ人々。これに対して雅楽と云う外来の音楽を主として受け持つ人たちを陪従・べいじゅう・と呼んだ)のことを指しています。従って、しょうかようひ、と、今では通常の通り読むようにしています。

 内容は、書き出しに、

  「ふるきやまとまいのうた  古今集より

しもとゆうかづらぎ山にふるゆきのまなく時なくおもふゆるかな」

 「しもと、は葛と言ん枕詞 シモトは杖の如き少し細き木どもにて薪やうの物に伝わるを幾本もそれを寄せて束ねるに葛を用也、今云木根也 神武紀に皇軍葛の縄を結て土蜘を平ぐ其邑を葛城となづけらると云う」

 と、『日本書紀』の八咫烏(やたからす)伝承を述べています。鴨の氏人達は、鴨神道の御教は、やたからすつたえのおしえ、として口伝してきたからです。