宮司の挨拶

糺の森の秋景色

H29-10-16 / 221話

 十月ともなると季節の巡りは駆け足のように早く感じます。いつの間にか仲秋の管絃祭は過ぎ、二十三夜も忘れていました。

 古来、私たちの遠い先祖は、月の満ち欠けや太陽、星の動きで日を数え暦の基としていました。それだけに、月や太陽、星は神聖視され、お社の御祭神にお祀りして畏敬し、四季の祭事をしていました。現代でも、変らず人々の生活をささえています。

 下鴨神社には、数や言葉の神さまがお祀りされています。数は言葉の基であり、言葉が御祭神として祭祀されている神社です。言社(ことのやしろ)と呼んでいます。不思議な神社です。いつ頃からお祀りされているのか、定かではありません。下鴨神社の歴史のうえから知れるのは、私たちの社会生活のなかで文字という存在は、重要な位置をしめています。文字がなければ何も出来ませんし、人びとの生活も成り立ちません。ところが、二千年ほど前は、私たちの先祖の時代、文字は、まだまだ一般的ではなかった言葉のみの時代でした。それだけに、言葉は、重要な意味をもっていました。言葉のなかでも特に数字は、人と人の間、集団と集団のなかで約束ごとなど、生活するうえで重要視されていました。太陽や月や星と変わりなく誓いをたてたり、約束を守ったりする象徴としてお社が成立したと伝えられてきました。

 今年は、昭和二十一年(一九四六)二月二十二日、官幣大社の制度が廃止になり、翌二十二年二月一日に言社を中心にして、山城国一宮・賀茂御祖神社崇敬会が創立され、新たな神社制度が発足して七十周年を迎えました。

十月十五日、記念の大祭がおこなわれました。たまたま、当日は、秋雨の時雨れる日となりましたが糺の森の馬塲のラグビーの「第一蹴の地」の碑の前では、京都市内や近隣の府県の子供たちのラグビークラブ、三十数チームが参加してタグラグビーを競いました。社頭では、洛北高校吹奏楽部・合唱部の演奏、京都瓜山生舞子連中のお神楽、桂きん枝師匠の落語、地元の人たちの紅葉音頭、ラグビー元日本代表の記念座談会等々、いろいろの催しのほか、京都の有名店協賛による福引き大会等々により秋の糺の森は、一日中賑わいました。

 秋色が始まった糺の森は、穏やかに暮れようとしていました。