宮司の挨拶

五月晴れ

H29-06-16 / 217話

 今年は、梅雨入りしてから、三ヶ日と雨らしい雨は、降っていません。糺の森にとっては、大変な時期です。

毎日、早朝と夕方、二度もおじさんは、散水車で木々に水まきをしています。

晴れやかな日に烏の縄手を一回りしました。若葉がガサハラを隠して、景観の手助けをしてくれています。これもまた、摂理かと思いつつ北浦の氷室の旧跡を見ました。

氷室開き神事のことは、以前この欄でも述べたように記憶していますが、いよいよ京の暑さの本番を迎える時期ともなれば、どうしても氷室のことを先ず話さなければなりません。

氷室開きの神事は、旧暦の六月朔日でした。経験者から聞いた話ですが、入り口の扉がわりに覆った重い石を二人がかりで一つずつ除けるときが一番、心おどるとき、と。と言うのも、前年の暮れ、糺の森に降った雪を大樹の根元に積み上げておき、何日かたって、残っている雪の塊の部分を四角に切り揃えて、氷室の底に並べて積み重ねていく作業を何日もかけてする労力と手間。その結晶、と聞きました。それでも、翌年の夏頃まで氷として残るのは、五分の一残ればよい方、と聞かされました。糺の森の北浦は、洞窟の風穴のような処であり氷室に適した場所です。

しかし、下鴨神社の氷室は、氷を造るため、と言うより神饌として調理した生物も保存することが一番の目的でした。例えば、御生神事、賀茂祭など、旧暦では、四月でした。新暦では、五月ですが、生物を調理するのに二日ほどかかり、本番の日には、ほぼ一日、外気にさらしていますから、イタミに耐えるよう氷室に保管する必要がありました。ですが、あぶら汗のにじむような季節に一かけらの氷にめぐりあう悦びは、この上ないことであったにちがいないと思います。