宮司の挨拶

この一年

H30-12-10 / 238話

『方丈記』に、「うづみ火をかきおこして、老のねざめのともとす。」という一節があります。読みやすくしますと「埋(うず)み火を掻き起こして、老いの寝覚めの友とする。」とでもいうのでしょう。

 歳をとると、その場面が目の前にちらつきます。背を丸めて、火鉢を膝頭にはさみ、火箸で炭火をいじくりまわしている姿を。ロダンの「考える人」のように。日本では「うき人」と、古典に称されている姿です。

 もはや、遠くなった光景です。今は、火鉢さえ見ることがありません。はたして、こういう場面を思い起こす余裕が、日常生活にありましょうか。でも、ひとときは、火鉢のかわりにパソコンの前で、つらづえ(ほお杖のこと)でもついてみたらどうでしょう。一年がたつ早さを思い知らされます。

 この一年は、災害で明け暮れました。各地では、まだ多くの方が苦しまれています。当神社でも、ようやく、倒木をかたづけ始めたばかりです。被害をうけた社殿についても、修理方法が決まったばかりです。この状態で年を越さねばなりません。このように時間のかかっているのは、つい最近までは、このように倒木がたくさん出た場合、近くで引き取ってくれる先がありました。ところが、今は無いのです。電話をかけまくってようやく、製材所がみつかりました。今度は、大型の重機を揃えている業者さんが被害地へではらっており、なかなかありません。有ったとしても順番待ちです。それでもなんとか、見通しがつきました。糺の森修復計画もたちました。

 今月十二日は、お薬酒、若水神事です。この日から下鴨神社は、お正月です。