宮司の挨拶

御遷宮の魂結び

H29-07-25 / 218話

 昨年の暮れ、ある会の要請により講演をしました。御遷宮を奉仕して、特に賀茂御祖神社の御遷宮については、学問的にも、市中でもあまり知られていませんし、明らかでなく、例え限りがあってもぜひこの際話してほしい、という要請でありました。

確かに、今日まで語られることも、記述されることもありませんでした。とりわけて隠し立てする必要はないのですが、公にもすることもないので今日に到ったのではないかと思います。

そこで、社務の予定をみると、まる一日を空けられるのは、暮れまでなく押し詰まってからとなった次第です。  先日、その講演録がとどきました。約二時間の講演でしたが、実に丁寧に記録され、この種の講演は、どうしても例を示したり、脇道へそれたりするものですがよく整理をしていただき、読みやすくなっていました。

 今回、第三十四回式年遷宮は、仮遷宮は、第十四回元亨二年(一三二二)十二月二十四日の「かりどののごせんぐう」を参考とし、正遷宮は、第八回建仁元年(一二〇一)十二月十七日と一部、第二十二回延宝七年(一六七九)九月十七日の御遷宮を参考としました。  これらの御遷宮を参考としたのは、元亨度と建仁度が冬物であり、延宝度が夏物であったからです。御神服や夏冬の威儀物を参考として調整する必要があったからです。しかも、それぞれの御遷宮の時代的背景が現代とよく似てみえたからです。ただ、祭事や神事の祭儀次第は、ぜんぜん現行とは異なります。賀茂御祖神社は、伝統的祭事は、伝統を守るためあえて古典の次第により齋行しています。従って、現行の祭儀次第と違うところが多々あります。祭事の舗設や祭具も異なります。祭事の期間も九日間です。最初の二日間は、官制の祭事でが、後の七日間は、氏神の神事として市民のよろこびの祭りでした。今回の講演では、最初二日間の祭事を概観するのみで、後の七日について、時間がなく触れることも出来ませんでした。古代の祭りを伝えるうえでとても重要ではないかとの思いから今後、機会あるごとに紹介していきたいと思っております。

 その一つに「魂結び」があります。

 魂結びとは、『日本書紀』の持統天皇の即位のくだり四年(六九〇)に、「天神寿詞」(あまつかみのよごと)に由来しています。即位された天皇の御代がいつまでも栄えそのうえご長命であられるよう申し上げる「吉(よ)」「言(こと」、祝寿のことです。人々は、神々が御生(みあれさ)れ、生まれかわられたことに悦びあうのでした。

 元亨度の次第書には、「コヨリ」と記しています。それは、書類などを閉じる紙のコヨリではなくコウゾそのものを継いだ荒々しい紐状のものでした。御本宮の内から御扉の御錠を通して人々の手に届くところまで曳かれた紐でした。「コヨリ」の紐を曳くことによって御錠が大きな音をたてます。それを神の出現と人々は感動したのです。出現された神の御魂が空中に飛び散ってしまわないよう、「コヨリ」を伝って人々の心のなかにしみて結び緒となるよう願ったのです。

 現在は、コウゾは入手できないので紅白の布になっています。